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佐田岬半島

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佐田岬半島

かまぼこを愛した男が人生をかけて作る「じゃこ天」

“日本一細長い半島”と呼ばれる佐田岬半島。瀬戸内海と宇和海に挟まれた地域にあり、春はアジやサバや鯛。夏はアワビやサザエや太刀魚やイサキ。秋はウニやハマチ。冬には伊勢海老やブリなど、年間を通して海の幸に恵まれています。一方で、平地が少なく急峻な山々に囲まれていることから、この地域では畜産があまり発展せず、牛や豚肉の代わりとして、魚肉を活用するという食文化が根付いたのです。八幡浜名物のじゃこ天もそのひとつ。JALふるさと応援隊愛媛県担当・飯田さんと、この土地の郷土料理の魅力に迫りました。

PROFILE

鳥津康孝さん

くずし鳥津社長。父親である初代社長の良雄さん、母・君子さんの背中を見て育ち、幼いころからかまぼこ職人になることを夢見ていた。大学を卒業した後、23歳で実家に帰り、鳥津蒲鉾店に就職。現在は2代目社長となり、メディアに多数出演するなど、じゃこ天の普及活動に力を入れている。康孝さんが商品化した「前略、八幡浜から」は、第69回全国蒲鉾品評会(2017年)で農林水産大臣賞を受賞するなど、高い評価を受けている。

老舗かまぼこ店のこだわりのじゃこ天作りに密着!

1960年創業、地元の人に愛されるかまぼこ店「くずし鳥津」

愛媛県八幡浜市の駅前に工場と販売所を構える老舗かまぼこ店「くずし鳥津」。現在、社長を務める鳥津康孝さんは、2代目になります。くずし鳥津の前身となる「鳥津蒲鉾店」が創業したのは1960年のことでした。幼い頃から仕事に一徹な両親の背中を見て育った鳥津さんは、子供の時から脇目も振らず「大きくなったらかまぼこ屋になりたい」と思っていたそうです。大学を卒業した鳥津さんは、かねてからの希望通り鳥津蒲鉾店に就職。両親同様に、かまぼこやじゃこ天作りに情熱を傾けてきました。

昔ながらのこだわり抜いた製法で作られるじゃこ天は、地元の人たちにとってはお馴染みの味。「鳥津さんの作るじゃこ天なら安心して食べられる」といお店のファンの声援を糧に親子三代で日々商品作りに取り組んでいます。

「じゃこ天」、「前略、八幡浜から」(無添加じゃこ天の塩味・醤油味)、「たちうお巻」、「皮ちくわ」がセットになった「くずしセットB」のうち、今回は「前略、八幡浜から」と「皮ちくわ」の製造現場に密着しました。

じゃこ天づくりは、午前8時からスタートします。作業場いっぱいに並べられたのは、ほたるじゃこという小さな魚。この日はトロ箱5つ分で、約75キログラム分のほたるじゃこを使って、じゃこ天を作るとのことでした。

飯田さん:この小さな魚がじゃこ天の材料になるんですね。鮮魚店では、あまり見かけないような…。

鳥津さん:ほたるじゃこ一匹では小さすぎて食べようがないですからね。だから鮮魚店には流通しないんです。じゃこ天の始まりは、大きい魚を水揚げした際に、一緒に水揚げされた小さな魚を練り物にしたというもの。そもそもじゃこっていう名前は、使いようのない魚という意味の“雑魚(ざこ)”が語源とも言われているんですよ。

飯田さん:海の恵みを無駄にしないようにという知恵から生まれたんですね。

鳥津さん:無駄にしないといえば、この下ごしらえの段階で頭と内臓を一緒に取り除くのですが、取り除いた部分も廃棄せず業者に持って行ってもらって飼料として再利用してもらいます。我々にとっては当たり前のことですが、昔からSDGsに取り組んでいたといえますね。

定番のじゃこ天には、ほたるじゃこの他に、太刀魚やひめちなどの魚も加えますが「前略、八幡浜から」は、よりシンプルな味を追求した商品のため、ほたるじゃこだけで作られています。

下処理をされたほたるじゃこは頭と内臓が取られて合計40キログラムほどに。鱗を取るために水洗いされた後、ミートチョッパーにかけられます。驚くべきは、骨と皮を取り除くことなく、そのまま機械にかけるという大胆さ!

飯田さん:そのまま入れてしまうと、食べたときに骨が引っかからないのですか?

鳥津さん:じゃこ天のミートチョッパーは特別で、牛や豚のひき肉を作るフィルターよりも細かい目のフィルターを使っています。念には念を入れて2、3回通すようにしているので心配いりませんよ。骨まで丸ごと食べられるというのがじゃこ天の特別なところ。カルシウムたっぷりなんです。

飯田さん:白身魚を使っているのに、なんでじゃこ天はグレー色をしているのかと思っていたのですが皮の色だったんですね。次はどんな工程をおこなうのですか?

鳥津さん:これから作るのは「前略、八幡浜から」の塩味。ですから、ミンチにしたものに塩を加えて味付けをします。そして、ここからが肝心な練りの作業。このステンレス製の臼は、中が空洞になっていて氷が入るようになっているんです。臼を冷やしながら練るというのが最重要ポイントです。

飯田さん:機械の中に入れるだけでなく、すり身と一緒に氷を入れて冷やしていくなんて、徹底されていますね。どうして冷やすことが大切なんですか?

鳥津さん:じゃこ天のすり身は、塩とタンパク質がくっつくことで、なめらかになっていきます。その適正温度が7度。温度が上がってしまうとタンパク質がダマになって固まってしまって、ボソボソの食感のじゃこ天になってしまうんです。暑い季節は特に気をつけなければならない工程です。

15分をかけて練り上げたすり身は、見た目にもなめらかなペーストに。次に、このすり身を木型で楕円形にしてから油で揚げます。

飯田さん:木型がじゃこ天の形や大きさを決めると思うのですが、鳥津さんの木型に対するこだわりを教えていただけますか?

鳥津さん:ひとつあたり40〜50グラムで、大きさは縦10センチ、横5〜6センチになっています。味や食感をしっかりと感じることができて、一枚食べ終わったときに、もう一枚食べたくなる大きさがこのサイズだと思っているんですよ。

飯田さん:この木型は、鳥津さん自身で作られているんですか?

鳥津さん:いまは自分で、電動のこぎりを使ってDIYしています(笑)。でも、愛用の木型は23歳でこの仕事を始めたときに、近所の大工さんが作ってくれたものなんです。綺麗な楕円形じゃないんだけど、絶妙なサイズのじゃこ天になるし、使い勝手もすごくいい。いまでも補修しながら使いつづけています。それで成形したすり身を油で揚げていきます。

飯田さん:カラッと揚がっていい匂いがしてきました。揚げる作業は機械を使っておこなっていくんですね?

鳥津さん:約800枚のじゃこ天を揚げていかないといけませんからね。温度、揚げ時間などが均一に管理できるので、サイズさえ一定になっていれば品質を管理する面でもメリットになるんですよ。

飯田さん:揚げたては少し膨らんでいるように見えますね。見ているだけでお腹が空いてきます(笑)。

鳥津さん:熱を加えるとふっくら膨らむんですよ。味もしっかり出てくるし、食感もプリプリになってこれがまた美味い!ただ、ここでは商品を袋詰めしないといけませんので、一度トレイに並べて冷ましていきます。出来立ての食感を味わいたい方には、オーブンで焼いて食べるのをおすすめします。ふっくら食感がよみがえりますよ。

日本酒と相性バッチリな珍味「皮ちくわ」

ちくわといえば煮物などに入っている中心に穴の空いた練り物ですが、皮ちくわと言われると「何、それ?」と途端に耳馴染みのないものに聞こえます。ただ、薄くスライスした皮ちくわを一度食べて見てください。「何、これ!」と驚かされる絶品の珍味。引き続き、JALふるさと応援隊の飯田さんが製造工程をリポートしてくれました。魚を鮮やかにさばいてくれたのは、鳥津さんの息子で長男の良太さん。

良太さん:皮ちくわに使われる魚はエソと言って、その身はかまぼこの原料になります。かまぼこを作るためにまずエソを三枚におろします。かまぼこに皮は使わないので、その皮を剥いでいくのですが、これが皮ちくわの材料になるんですよ。

飯田さん:あっという間に三枚おろしになっちゃいましたね。どれくらい修行を積めば、こんなにスムースにさばけるようになるんですか?

良太さん:僕が実家に戻って働き始めたのは5年前くらいから。だいたい1年間、毎日捌いていれば自然とこれくらいは上達しますよ。

飯田さん:皮を剥いでいくのも難しそうです。身と皮のギリギリに刃をいれていくんですね。

良太さん:確かにここがいちばんの難関かもしれません。親父には内緒ですが、ときどき失敗します(笑)。皮を剥いだら最後に包丁の背を使って鱗を取っていきます。

飯田さん:こんなに鱗がついていたんですね。大きかった皮が3分の1くらいに縮んでしまいました。

良太さん:一匹から取れる量が少ないので、大きいエソで10〜15匹。小さい場合は20匹分の皮を使って皮ちくわを作っていきます。

鱗を取り、綺麗に洗ったエソの皮を巻くのは鳥津さんの母・君子さん。創業以来、60年以上、かまぼこ製造に関わる大ベテランです。

飯田さん:ピンクのボウルに掛けられているのが先ほどさばいていたエソの皮ですね?

君子さん:そうです。コラーゲンたっぷりで焼き上げるとプルプルの食感になるんですよ。この皮を竹に巻きつけていきます。

飯田さん:ムラなく巻いていくのが難しそうですね。上手く巻くコツを教えていただけますか?

君子さん:かまぼこのすり身を接着剤代わりに使って、隙間を作らないように巻き付けるのが大切なところ。20匹分の皮でひとつのちくわになるんですよ。

約10分で10本ほどの皮ちくわを巻いてしまった君子さん。竹ちくわを焼き上げるのと同じ機械で焼いていきます。

君子さん:バーナーの下火でじっくり焼いていきます。焼きムラができないように皮ちくわが回るようになっているんですよ。

飯田さん:本当ですね、皮ちくわがゆっくり回っています。だんだんと焼き色がついていく様子は思わずじっと見つめてしまいますね(笑)

君子さん:巻き方や厚さが凸凹になってしまうと、十分に焼けている部分とそうじゃない部分が出てきてしまうんですよ。

飯田さん:だんだんきつね色になって、膨らんできたように見えますね?

君子さん:そうなんですよ。火を入れるとだんだん膨らんできます。5分ほど炙って、全体に焼き色がついたら完成です。私は焼きたての皮ちくわが柔らかくて好きなんですけど、息子(社長の康孝さん)は冷やしたものが好きだと言っています(笑)。そのまま食べるとすごく硬いので、薄くスライスして食べてくださいね。

出来上がったばかりの「前略、八幡浜から」のじゃこ天と皮ちくわを飯田さんが試食しました。

前略、八幡浜から(塩味)

「じゃこ天を噛んだときの弾力に驚きました。プリプリですごく歯ごたえがいいですね。『前略、八幡浜から』は、通常のじゃこ天から余計なものを引き算した無添加の商品ということでしたが、シンプルなのに物足りなさはまったくしなくて、むしろ噛むほどに溢れ出してくる魚の旨味を楽しむことができるじゃこ天だなと思いました。それに、噛んでいるとミンチにされた皮のプニッとした弾力や、骨のコリッとした食感も感じられて、心地よいです。すぐに飲み込むのがもったいない。ぜひ、じっくりと味わって召し上がってください」

皮ちくわ

「出来立てをスライスしたものをいただきます。こちらもしっかりとした弾力です。たしかにそのままかじったら歯が折れてしまうと言われた意味がわかりました(笑)。噛んでいくと解けるように柔らかくなって、ふぐの皮のような味わいになる珍味ですね。つなぎに使われているかまぼこのおかげか、甘さもしっかりと感じられます。これは、お酒を飲まれる方には、喜ばれる商品だと思います」

「八幡浜には美味いじゃこ天がある!」と全国に広めたい

佐田岬半島伝統の郷土料理・じゃこ天の味を守り続けるくずし鳥津。製造工程を見学するなかで、鳥津さんのじゃこ天に対する情熱がひしひしと伝わってきました。鳥津さんを突き動かす想い、その原動力になっているものについて、飯田さんが伺いました。

飯田さん:鳥津さんがじゃこ天のことをお話しされるとき、本当に楽しそうにされるのがすごく印象的でした。心からじゃこ天を愛しているんだなというのが伝わってきました。

鳥津さん:八幡浜は、漁業が盛んでかまぼこ屋も多い地域。だから、じゃこ天やかまぼこは普段から食卓に並んでいました。小学校の運動会で、お袋がお弁当を作ってくれるじゃないですか。そこに入っているおにぎりは海苔の黒、玉子の黄色、削りかまぼこのピンクという3色おにぎりが定番で、他の家庭でもそれが当たり前でした。自分の住んでいるところ以外でも当然同じだろうと思っていたので、物産展で東京にじゃこ天を持って行ったときは驚きましたよ。東京の人たちは僕たちが当たり前に食べていたじゃこ天をまったく知らなかったんです。そのとき、「八幡浜には美味いじゃこ天があるんだぞ」ということを全国に広めようと決心しました。

飯田さん:ご自身がいつも食べてきたものが、全然知られていないというのは、なかなかのカルチャーショックですよね。

鳥津さん:最近は調理の手間や骨があって食べるのも面倒ということから、ただでさえ魚離れが深刻化しています。その点、じゃこ天は、骨と皮まで丸ごと食べられる天ぷらですから、調理の手間がかかりません。しかもこんなに美味しいんだから、どんどん食べてほしいですね(笑)。

飯田さん:じゃこ天を広めるためにどんな活動をされているんですか?

鳥津さん:メディアに取り上げていただいたりもしますが、機会があれば北海道から沖縄まで全国各地でじゃこ天を広める販売活動をしています。また、プロモーションだけではなく、新たに商品開発することもじゃこ天を広めるきっかけになるのではと思っています。

飯田さん:なるほど。そうした想いを込めて作られたのが「前略、八幡浜から」だったということですね。

鳥津さん:「前略」は、初代の親父が作った元祖となるじゃこ天から、保存料や甘味料などを引き算して、可能な限りシンプルに作った僕のじゃこ天です。この商品は、2017年度の第69回全国蒲鉾品評会で農林水産大臣賞をいただきました。これまでの取り組みと味を評価していただいた成果かなと思っています。

飯田さん:最後に、鳥津さんのこれからの目標についてお伺いできますか?

鳥津さん:全国の人たちにじゃこ天を知ってもらいたいという想いが強くあると話しましたが、同じくらい八幡浜を大切にしたいという気持ちがあります。いつも食べてくれている地元のみなさんに感謝を伝えたくて始めたのが、毎月第4木曜日におこなう工場直売なんですよ。

このイベントでは、ふだん作っていない種類の天ぷらを限定販売しています。紅生姜天、青のりとレンコン、コーンの天ぷらなど自分が美味しいと思っているもの、お客さんが喜んでくれるものを採算度外視で作っています。この直売日に地元の人がたくさん来てくれて、くずし鳥津を応援してくださる。なかには「八幡浜を離れた息子に送りたいから」と買ってくださるお客さんもいるほどなんですよ。

私たちは八幡浜に根付いてしっかりとした商品を作る。それを全国の人たちに食べてもらって美味しいと言ってもらう。地元で愛してもらっているくらい、全国のみなさんがウチのじゃこ天のファンになってくれたら、これほど嬉しいことはありませんね。

写真右端から社長・康孝さん、長男・良太さん、母・君子さん、次男・雄太さん、妻・晴美さん。親子三代で伝統の味を守っている

じゃこ天を生んだ「佐田岬」の魅力を応援隊がナビゲート!→次のページへ

「くずしセットB」を、3名様にプレゼント!

今回ご紹介した「くずしセットB」を合計3名様にプレゼント。下記応募要項をご覧いただき、ふるってご応募ください。

応募要項はこちら

撮影/吉澤健太 取材・文/小石原悠介

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