紀伊半島
山と川が育んだ森に囲まれた街には美しい景色とグルメが似合う
石井物産のある五條市は、金剛山などの山々に囲まれた盆地にあります。この街の景色は日本人にとっての原風景と言ってもいいでしょう。広く澄み渡った青空、緑豊かな山々、川のせせらぎなど、この街には懐かしさに目を細めてしまうような、安らぎの風景が広がっているのです。テレビ取材でも時々訪れることがあるという奈良テレビ放送・アナウンサーの吉川奈央さんと市内を散策しました。
吉野川を中心に栄えた自然豊かな地域
夕暮れの吉野川。川は水鏡になって空に浮かぶ雲を映します 朝の吉野川。晴れた日は燦々と太陽が照り、水面の反射が眩しい 澄んだ空気と水に癒される山間の風景 吉野川支流の丹生川にかかる下田橋。見ごたえのある橋も多い
五條市を流れる「吉野川」は奈良県のシンボルとも言える清流で、三重県との境にある大台ヶ原から発しています。その全長はなんと136㎞。奈良県から和歌山県に入り、和歌山湾に流れ込む吉野川は、和歌山県では「紀の川」と呼ばれます。吉野川周辺地域は豊かな森に恵まれており、川上村などではブランド木材・吉野杉が採れることでも知られ、伐採された杉は吉野川を利用して運ばれていきました。かつての五條市には貯木場が作られ、水運拠点として発展してきたという歴史を持っています。
散歩しながら眺めているだけでも、心癒される吉野川。五條市内の吉野川とその支流・丹生川を散策した吉川さんは、滔々と流れる川を前に「ずっと見ていられますね〜」とリラックスモード。「空の青さを映す昼間の川もきれいですが、夕方になるとオレンジ色に染まって違った表情を見せてくれます。この景色は五條市のトレードマークと言ってもいいのでは」(吉川さん)
例年8月に行われる「吉野川祭り」という納涼花火大会(2020~2022年はコロナ禍のために中止)。日本の花火文化の礎となった花火師「鍵屋弥兵衛」が五條市出身で、吉野川沿いで花火作りを始めたとされます。県内でも人気のお祭りということで、再び開催されたあかつきにはぜひ訪れてみたいイベントです。
散策するのにぴったり。新町周辺の歴史的景観保護地区
江戸情緒を感じる五條新町 狭い路地も風情が漂います 酒蔵を改装したバー「GOJO GIROCCO」 寿命川。“五條”市の由来は「宇智川、内の川、西川、東浄川、寿命川の五つの川があったから」とも 幻の五新鉄道の線路。二度の中止を経て、立派な橋脚のみが現存
五條市の中心には、五條新町通りという歴史情緒の漂う街並みが残されています。江戸初期に大和五條藩主・松倉重政が作った城下町で、松倉が肥前日野江藩に移り、五條藩が廃止されたあとは、大和南部の天領支配の中心地として五條代官所が置かれました。さまざまな年代を代表する建築様式が残されていることから、2010年に重要伝統的建造物群保存地区に指定。漆喰塗の重厚な町家と吉野川沿いの氾濫に備えた石垣は、新町の作りの特徴になっています。
江戸時代を通して、五條新町は伊勢街道沿いの宿場町として賑わいました。古くから大阪と紀伊を結ぶ交通の要衝であり、伊勢街道、紀州街道、熊野に通じる西熊野街道、奈良への下街道や中街道につながっていたのです。この地域の歴史に興味を持った方には「まちなみ伝承館」がおすすめ。明治から大正に建築された民家を改修整備した伝承館で、この街の歴史や文化のわかる資料が展示されています。
古い建物がただ保存されているというだけではありません。古民家を改装した飲食店などグルメスポットも魅力で、中でもご紹介したいのがバー「GOJO GIROCCO」。古い酒蔵を改築した建物の中にあり、旬のフルーツを使ったカクテルや、大和野菜や大和牛などの地元食材をふんだんに使った料理も楽しめます。ノンアルコールカクテルも提供してくれるので、お酒の苦手な方や運転する方でも、気軽に立ち寄ることができます。
吉川さんも五條新町にはよく番組撮影に訪れるそう。「風情があって、どこを切り取っても画になるので、写真好きな方にはたまらないエリアではないでしょうか。雑貨屋さんなどもあって街歩きをしていると楽しいですよ」(吉川さん)
- 新町の歴史的景観保護地区
- 奈良県五條市新町 TEL0747-22-4001 (五條市企業観光戦略課)
- JR五条駅から徒歩15分/南阪奈道路葛城ICから国道24号経由20㎞(約40分)
GOJO GIROCCO(ごじょう じろっこ) - 奈良県五條市本町2丁目2-2 TEL0747-23-2605
- 営業時間18:00~翌2:00(翌1:30LO) 日曜・第4月曜休み
「柿博物館」に行けば、柿のことはなんだってわかります!
高台にそびえる大きな柿形のドーム 高さ8.7m、直径18.2mの建物は、三角のアルミパネルを236枚つなぎ合わせてある 柿の歴史を伝える資料や柿のサンプル、加工品まで、あらゆる“柿”情報を網羅
五條市の西吉野町にある一の木ダムより約1㎞。山の頂上にたどり着くと巨大なオレンジ色のドームが現れます。その名も「柿博物館」。五條市は柿の生産量全国2位を誇る奈良県の主要産地であり、夏(ハウス柿)から冬(冷蔵柿)にかけて豊富な種類の柿を出荷しています。柿博物館は、果樹・薬草研究センターという果樹や薬用作物の栽培について研究する施設の中にあり、柿についての資料を収集・保存するとともに、一般に公開する目的で1994年に開設。9〜12月には約200種類の柿が展示されるほか、柿について学べるシアターも。柿栽培の歴史や活用方法、全国の柿キャラクターの紹介まで、誰かに話したくなる柿情報が盛りだくさんです。
「私の出身地でもある奈良県・斑鳩町のキャラクター“パゴちゃん”も紹介されていて、少し誇らしい気持ちになりました(笑)。これほど柿に特化した資料館は他にないのではないでしょうか」(吉川さん)
- 柿博物館
- 奈良県五條市西吉野町湯塩1345 TEL0747-24-0061
- 営業時間9:00~16:30 月曜日(祝祭日の場合は翌火曜日)、年末年始(12月28日~1月4日)休み 無料
山奥で見つけた絶景ピッツェリア「cafeこもれび」
曲がりくねった山道を登っていくと山頂付近にぽつんとあるピッツェリア。「cafeこもれび」の魅力は、周囲よりも高い位置にあることから、雄大な吉野の山々を一望できるというところにあります。「景観のよさは素晴らしいのですが、なぜここにカフェを作ろうと思ったの?」と吉川さんは不思議そう。
オーナーの柳澤さんは150年の歴史を持つ柳澤果樹園の生まれ。この地で育ったことから「この景色を他の人にも味わってもらいたい」「雄大な自然を眺めながら食事ができたら、お客さんに喜んでもらえるのではないか」と考え、自宅横にカフェを作ったそうです。店内にはカウンター4席とテーブル席2席。天気がいい日には外のウッドデッキで食事をすることができます。
「マルゲリータ」単品1,230円 「和風梅しそ」単品1,330円
南仏風の白壁が可愛らしいこのカフェの名物は、石釜で焼いた手作りのピザ。定番のマルゲリータやジェノベーゼなど5種類のなかから、吉川さんは和風梅しそをオーダー。
「焼きたての香ばしさで食欲が刺激されますね。ピザ生地は薄めでサクサク、梅の酸味と大葉の爽やかな香りがとてもマッチしています。また、シャキシャキした食感のシメジも乗っていたので食べ応えも十分。澄んだ空気の中でいただくといっそう美味しく感じられますね」(吉川さん)
さらに上に登ると現れる「ファームステイこもれび」 夜は透明ドームの中で自然のプラネタリウムを
カフェのそばには、1日1組限定のBBQ&キャンプ施設「ファームステイこもれび」(メインテナンスのため2023年3月まで休業中)も併設されています。カフェから続く坂をさらに登ると頂上にテントやBBQ施設、展望台が。そこから眺める景色はまさに絶景! 360°遮るものなく、吉野の山々を独り占めできてしまいます。また、展望台には透明のドームが備えつけられており、日没後はその中から満点の星空を仰ぎ見ることができるのも大きな魅力。この大自然の中に一日身を置けば、体も心もすっかり癒されてしまうに違いありません。
- cafeこもれび
- 奈良県五條市西吉野町湯塩210 TEL0747-32-0600
- 営業時間11:00~16:00 火曜休み
ファームステイこもれび- 住所は「cafeこもれび」と同じ/予約サイトhttps://komorebi.reserven.jp/
- 利用可能時間12:00〜翌10:00(BBQは12:00~18:00)
- ※メインテナンスのため2023年3月まで休業、再開時期は要問合せ
五條市から少し足を延ばして…桜井市で訪れた日本最古の神社「大神神社」
五條市での取材を終え、紀伊半島地域を後に。道すがら、奈良県桜井市に日本最古の神社があるということで寄り道をしました。
実はここは二の鳥居 日本一の大鳥居が大神神社の目印 <奥>国の重要文化財でもある拝殿
高さ32.2m、柱間23m、車道を跨いで設置された日本一の大鳥居をくぐると見えてくる大神神社。三輪そうめんで有名な三輪山を神体山としています。この神社の祭神は大物主大神。古事記にも書かれている国づくりの神様であり、農業や工業、商業をはじめとした産業開発、方除、治病、造酒、製薬、禁厭、交通、航海、縁結びなど、さまざまな人間生活の守護神として尊崇されています。これだけのご利益があるなら、お参りしないわけにはいきません。
二の鳥居をくぐり、境内のさらに奥へ。木漏れ日を浴びながら参道を進むと大神神社の末社である祓戸神社や、縁結びのご利益がある夫婦岩などがあります。緩やかな階段を登った先に重厚な拝殿が鎮座しています。1664年に将軍・徳川家綱によって再建された歴史ある建物で国の重要文化財。この拝殿にお参りすることで、神聖な三ツ鳥居を通し三輪山を拝むことと同じ意味合いを持ちます。大神神社はこうした原初の神祀りを現在に伝える文化的価値の高い神社なのです。
大神神社の周囲には関係の深い摂社と末社が集まっています。記録に残る日本最初の杜氏でお酒の神様とされている高橋活日命を祀った活日神社や、薬の神様・少彦名神を祀る磐座神社など、数多くの神社がありますが、訪れたのは狭井神社。祭神・大物主大神の荒魂を祀る延喜式内社で、病気平癒・身体健康のご利益があるとお参りする人があとを絶ちません。狭井神社の拝殿脇には「薬井戸」と呼ばれる井戸があり、万病に効くという薬水が湧き出ると言われています。このご神水を求めて、参拝する人も多いそうです。
大神神社の拝殿から狭井神社に続く道は「久すり道」として整備されており、歩いているだけで心が洗われるようなスポットになっています。通りの脇にはメグスリノキなどの薬木が植えられているのも興味深いポイント。これらは製薬会社から奉納されたもので、狭井神社だけでなく大神神社に対する各所からの信仰の篤さを表しています。
三輪山を中心とした神社エリアは広大で、とても一日でまわりきることはできません。何度行っても新たな発見が待っているという魅力が大神神社にはあるのです。
- 大神神社
- 奈良県桜井市三輪1422 TEL0744-42-6633
- 参拝時間9:00〜17:00
- 「柿こーり」のお取り寄せはこちら
※価格などの情報は取材時のものです。
撮影/吉澤健太 取材・文/小石原悠介