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“柿を科学する”っていったいどういうこと?

シャリぷる食感のスイーツ「柿こーり」を手がける石井物産は、製造だけでなく「柿の専門」という販売店も展開しています。扱う柿関連商品のバリエーションも業界随一。60種類を数える商品は「柿をステキな果物に」「柿を科学する」というコンセプトをもとに作られてきました。特に「柿を科学する」という言葉はとても興味深く感じられます。創業57年を迎える石井物産がどのようにイノベーションを遂げてきたのか、奈良テレビ放送のアナウンサー・吉川奈央さんが石井和弘社長にロングインタビュー。

石井物産の本社前でお話を伺いました

吉川さん:五條市では、道の駅やお土産店以外にも石井物産の商品がいろいろなところに置かれているのを見かけます。五條市を代表する柿加工品メーカーということを改めて感じましたね。

石井さん:今でこそ柿の専門業者ですが、創業時は漬物の下漬け(本漬けの前の下ごしらえ)を生業としていたんですよ。当時は梅や茗荷、きゅうりや茄子などを主に扱っていました。

吉川さん:お漬物を作っていたなんて意外です。なぜ柿を扱うことになったのですか?

石井さん:五條市は、奈良県随一の柿の名産地です。たくさん柿がとれるということは、廃棄になる柿も多いということ。その量は年に300〜500tといわれていました。村長であり農協の組合長をしていた祖父が「捨てられるのは忍びない、何かに生かせないか」と父に相談し、廃棄柿を引き取って柿酢を作り始めたのが柿を扱うきっかけだったんです。

石井物産の原点、柿の酢

「柿酢」(120ml 648円)からすべては始まった

吉川さん:石井物産にとっての原点となる柿酢は、今も人気のある商品だと聞きました。どんな点にこだわられていますか?

石井さん:水を一滴も使わず、柿と酵母だけで作っているうえ、他の添加物も一切使いません。また、前回作った桶から新たに作る桶に柿酢を移して、酵母菌を培養させる「追い足し製法」もポイントですね。若い酵母だけだと酸味が尖ってしまいがちなので、長年育てた酵母を使いまろやかな味わいに仕上げています。米酢を使うように気軽に活用してほしいです。

吉川さん:柿には、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなどが豊富に含まれていると聞きます。それをお酢でいただけるなんてすごく健康になれそう。おすすめの使い方はありますか?

石井さん:ドリンクにすると毎日続けられるのではないでしょうか。一般的なのは水で4~5倍に希釈する方法ですが、薄める初心者の方はサイダーで割っていただくと飲みやすいと思います。また、牛乳に柿酢を加えると、酸と牛乳のタンパク質が反応してヨーグルトのようなとろりとしたドリンクになりますよ。

石井物産が誇る柿の人気商品“四天王”

吉川さん:石井物産の商品の中で、特に人気のあるものは何でしょうか?

石井さん:「柿もなか」「郷愁の柿」「柿日和」「柿バター」の4つは、ぜひ一度味わっていただきたいです。まずは、柿もなか。煮詰めた富有柿に水飴や柚子の皮を加えて作った柿あんが特徴で、もなかひとつに対して半個分の柿を使っています。紅茶に合わせるとタンニンの苦味が柿に合うので、美味しく召し上がっていただけますよ。

柿もなか(1個 139円)

吉川さん:口に入れた瞬間に柚子の香りがフワッと広がりますね。めっちゃ爽やかです。もなかが軽いので柿あんの存在感をしっかりと感じます。餡の鮮やかな色は、じっくり炊いているからこそ出せる色合い。見た目にも楽しめるお菓子だと思います。

郷愁の柿(1個 324円)

石井さん:郷愁の柿は、法蓮坊柿という渋柿を使います。干し柿にして正月用の鏡餅やしめ縄などに添えられてきた法蓮坊柿。最近はこうした需要が減り、農家さんの下支えになりたいという思いもあって考案したお菓子です。渋みとの相性がとてもいいということで、郷愁の柿には渋皮付きの栗あんを中に入れています。2013年には観光庁主催の「世界にも通用する究極のお土産」のひとつに選んでいただきました。

吉川さん:ヘタまでついていて、法蓮坊柿の懐かしさを感じさせるビジュアルが素敵ですね。しっとりとした干し柿となめらかな栗あんがよく合っていて上品なお味です。

柿日和(40g×6個 2,702円)

石井さん:富有柿を使った柿日和。柿の乾燥スライスを卸した際に「これだけ食べても十分美味しい」と言われたことをきっかけに商品化しました。10㎜厚程度にスライスした柿を乾燥させたので、干し芋感覚で召し上がってください。

吉川さん:程よく柿に水分が残っていて繊維がしっかりしているので、噛みごたえはしっかり。噛むほどに味が出てくるので「柿を食べてるな〜」という満足感もあります。

柿バター(150g 698円)

石井さん:そして柿バター。りんごバターにインスパイアされてできた商品です。完熟した柿のペースト1㎝角に切った柿を混ぜて、そこに国産バターを合わせました。おすすめの食べ方は、一度パンに塗ってから焼いて、焼き上がったトーストにもう一度塗るという二度塗り。溶けたバターの風味とフレッシュな柿の食感を同時に味わうことができますよ。

吉川さん:柿の優しい甘さは乳製品ともよく合いますね。柿がゴロゴロと入っていて、今までに食べたことのない新鮮な味わいでした。

五條市役所で石井物産の商品が買える! 「柿の専門」にぎわい棟店

吉川さん:「柿の専門」はJR奈良店や三条通り店などの店舗がありますが、2021年11月には、五條市役所新庁舎に建てられた「にぎわい棟」にもオープンしましたね。

石井さん:にぎわい棟では弊社商品をはじめ、五條市の関連アイテムも販売。カフェも営業しています。

吉川さん:明るく開放的な空間になっていて、すごくリラックスできるカフェですね。こちらでぜひ食べてもらいたいものはありますか?

石井さん:お昼時になると、ランチで利用してくださるお客さんも多いですが、柿ソフトクリームは年齢を問わず人気です。冷やし柿と柿ジャムなどを配合した干し柿ソースをソフトクリームにかけて召し上がっていただきます。

吉川さん:ソフトクリームは、かわいい牛の機械が自動で巻いてくれるんですよね?

石井さん:物珍しさからか、お子さんにもすごく喜んでもらえています。

 

吉川さん:柿酢から始まった柿製品もいまや60種類。どうしてそんなに種類を増やすことができたんですか?

石井さん:商品ラインナップが増えた理由はふたつあると思います。ひとつは祖父の代から継承されている「行き場のない柿を生かしたい」という思い。毎年、柿の収穫期になると、様々な種類の柿を引き取るのですが、種類や状態によって用途を分けていったら、商品数も次第に増えていったというわけです。

吉川さん:どんな柿でも石井物産が製品にしてくれるという安心感があれば、農家さんも安心して柿を作れますね。理由のふたつめというのは?

石井さん:掛け合わせのなかから新たな商品が生まれたというパターンです。たとえば、あんぽ柿の製造の過程で冷やし柿が生まれて、それが柿こーりに発展していったというように。既製商品や半製品(製品を生産する過程で生まれる中間的製品)を他にも生かせないかという考えから、新商品が誕生することは多いですね。

「石井物産の商品は、デザインもオシャレで手に取りたくなります」

吉川さん:今まで「柿ってすごく美味しいのに、アレンジのバリエーションが少ないのがもったいない」と思っていたんです。でも、石井物産のいろいろな商品をいただいて、同じ柿でもこんなに変わるんだという発見がありました。

石井さん:いちご、オレンジ、りんごやバナナなどは保存がきくし加工も簡単なので、若い人たちが口にしやすいと思うんです。でも、柿はそれほどもちがよくないし、生食と干し柿以外の食べ方があまり知られていない。高齢者の食べ物というイメージが強いんです。だからこそ吉川さんのような若い世代に向けて、柿の美味しい食べ方を提案できるように商品を開発し、パッケージもオシャレなものにして手に取ってもらえるようにしていかないといけない。こうした柿のブランディングも未来に向けて考えていくべきだと思っています。

吉川さん:石井物産の商品は瓶や包装がオシャレですし店舗も洗練されているので、つい立ち寄りたくなるお店です。

石井さん:私たちの会社は「柿をステキな果物に」「柿を科学する」というふたつのコンセプトを柱にしています。その魅力をたくさんの人たちに届けていくことは「柿をステキな果物に」育てていく活動だと思っています。

なぜ、”柿を科学する”のか

吉川さん:「柿を科学する」という言葉が気になっていたんですが、具体的にどんなことをされているんですか?

石井さん:柿が赤くなると医者が青くなる」という言葉があるほど、古くから柿は健康食品として注目されてきました。その機能性を研究して商品開発をすることが、柿の持つ可能性を広げるのではないかと考えています。

吉川さん:フルーツらしからぬ、少し難しそうな話ですね。

石井さん:柿って実だけでなく、葉やヘタに至るまですべて利用できる果物なんですよ。葉には緑茶の30倍のビタミンCが含まれていると言われていて、抗酸化作用のあるポリフェノールも豊富。ヘタは漢方の生薬として用いられており、しゃっくり止めの効果があると言われているんです。さらに言うと、干し柿の表面にふいている白い粉=柿霜(しそう)は、咳や喘息に効くと古くから言われていますし、柿渋は二日酔いに効くということが実証されています。柿渋については、近畿大学と企業が共同開発したサプリメントが販売されるなど話題になっていますね。こうした効果を商品にして提供できないかと考えているわけです。

吉川さん:大学の研究機関にも注目されるなんて、柿ってすごい果物なんですね。

「柿を科学することで、柿の可能性を広げていきたい」

石井さん:奈良県立医科大学では、柿渋=柿タンニンが新型コロナウイルス感染症の重症化予防や感染伝播抑制に効果がある(動物モデルでの証明)と発表されるほどなんです。

吉川さん:新型コロナウイルスにまで効果が! 果物としてだけではなく、薬としても期待してしまいますね。石井物産ではどのように柿の健康効果を生かした商品を作られているんですか?

石井さん:わが社は製薬会社ではないので、薬ではなく健康食品として柿を広く扱えたらと考えています。柿の専門の関連ブランド「KAKIHA」で、柿の葉を使ったお茶や加工品を展開しているのも「柿を科学する」という取り組みのひとつ。同時に、柿についての基礎研究を進めることも、柿の可能性を広げる点では大切なことだと考えています。

吉川さん:基礎研究というと?

石井さん:今取り組んでいるのは、柿渋の純度の測り方。うちのスタッフを大学に派遣して研究を進めています。それが確立できれば、柿渋の研究がより効率的に進められると思うんです。

吉川さん:これまた難しそうなお話ですね(笑)。

石井さん:妻にも「柿の基礎研究なんてして、どんな意味があるの?」と言われています(笑)。たしかに、それをしたからといって、すぐに商品が売れるというわけではありません。でも、こうした研究は柿に注目してもらう一助になると思いますし、5年、10年続けていけば、何かチャンスが巡ってくるかもしれません。日々の研究はそのための準備でもあるんです。

「日本一の柿の産地にしたい」石井物産創始者の思いが西吉野の秋の景色を作った

吉川さん:石井物産の本社がある西吉野町は、自然豊かでとても穏やかな場所ですね。山中に柿園が広がっているのもこの地域ならでは。県外から来る観光客の方々には、ぜひこの景色も楽しんでいただきたいです。

石井さん:秋、柿の実が色づいたころの山々の景色は、西吉野町の風物詩と言えるかもしれません。そもそも柿をこの地域のブランドにしようという取り組みを始めたのは、村長で農協の組合長をしていた祖父。「西吉野町を日本一の柿の産地にしよう」という想いは今の石井物産にも息づいています。

吉川さん:おじいさまが作り出した景色なんですね。このあたりには一体何軒の柿農家さんがあるのでしょう?

石井さん:一帯で300軒ほどあると言われています。今でも周辺農家のみなさんから「美味しいんだけど傷などがついて生食用に出せない」ような規格外品を引き取っています。旬の時季に採れたものを冷凍庫にストックして、年間300tの柿製品を作っているんですよ。

吉川さん:当初300〜500tの柿が廃棄されていたと思うと、随分ロスが減りましたね。

石井さん:SDGsと言えば聞こえがいいですが、石井物産はもったいない精神によって育てられてきた会社だと思います。柿を無駄にしないように取り組んできたことで、いくつもの商品を開発することも、農家さんの下支えにもなることができました。本当の特産品というのは消費者の方だけでなくて、地域の人たちにも喜んでいただけるものであり、作り続けられる商品だと思うんですよ。いつの時代も廃れない柿商品を目指して、これからも柿と向き合っていきたいですね。

  • 石井物産
  • 奈良県五條市西吉野町八ツ川458 TEL0747-34-0518
  • 「柿こーり」のお取り寄せはこちら

 

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※価格などの情報は取材時のものです。

撮影/吉澤健太 取材・文/小石原悠介

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