国東半島
大分の郷土料理「りゅうきゅう」を知っていますか?
“りゅうきゅう”と聞くと、沖縄を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、大分県のりゅうきゅうはこの地に伝わる郷土料理のこと。刺身や料理などに使われた魚の切れ端を無駄にしないように集めて漬けにして、ゴマ和えにしたものが「りゅうきゅう」と呼ばれました。諸説ありますが、ゴマ和えの調理法「利休和え」が変化したという説が有力なようです。JALふるさと応援隊・大分県担当の山形さんが、この地域の伝統食を全国に広めるために奮闘するメーカー、絆屋さんを取材しました。
PROFILE
中野晃一さん
株式会社絆屋の取締役社長。大分県別府市での水産加工会社勤務を経て、2010年に絆屋を創業。杵築市を盛り上げるために地元食材を積極的に使った商品開発を行うだけでなく、商工会や漁協などと協力して、町おこし活動に力を入れている。地道なアクションが身を結び、2017年に「杵築りゅうきゅう」は杵築ブランドに認定。さらにJAL国際線ビジネスクラス&ファーストクラス機内食に「ぶりのりゅうきゅう」「真鯛のりゅうきゅう」が採用された。
脂が乗って、香りも抜群。大分県佐伯市産の養殖ぶり
日本でも有数の産地である大分県佐伯市の養殖ぶりは、脂の乗りがいいことはもちろん、さっぱりとしていて香りが良く、血合いも鮮やかな一級品。脂がしつこくないことから食べ疲れしないのが魅力なのだといいます。水揚げされたぶりは、漁協ですぐに下処理。頭と内臓を取り、三枚に下ろして中骨を取り除きます。さらに尻尾を落としたらフィレの完成。これを真空パックに詰められたものが「絆屋」に届けられます。
絆屋社長・中野さんがりゅうきゅうを商品化させようと考えたのは、新鮮な魚介を特産品としているこの地域にあっても、深刻な魚離れという現実を目の当たりにしたからだと言います。
中野さん:絆屋を立ち上げる前にも水産加工に携わる仕事をしていたのですが、年々、干物の売り上げは悪くなるばかりで、”魚を食べる文化”が失われているように感じていました。山形さんは、最近いつ干物を食べたか思い出せますか?
山形さん:そう言われると、家で食べたのはずいぶん前のような気がします…。
中野さん:私も同じです。この1カ月の間に、アジの開きや塩焼きを食べたかなって思い返すと、案外食べていないんですよ。調理するのにも食べるのにも手間がかかるから、どうしても敬遠されてしまうのが原因です。この問題を解決するには、調理と食べるときの手間を極力省くことが重要なんじゃないかと気がつきました。
山形さん:そこで、りゅうきゅうに目をつけられたんですね。確かにパックから出すだけなら面倒臭さはありません。
中野さん:でも、始めたころは周囲に馬鹿にされましたよ(笑)。「りゅうきゅうなんて、何でそんなもんをわざわざ作るんだ?」と。
山形さん:そうなんですか? どうして、理解されなかったんでしょう?
中野さん:りゅうきゅうは所詮、刺身の切れ端で作る“まかない料理”。言うならばB級グルメなんですよ。「余り物で作るような料理に真剣に取り組むなんて変なヤツだ」と、思われたんでしょうね。でも、馬鹿にしてきた人たちもりゅうきゅうの美味しさは知っているんです。
山形さん:たしかに。美味しいから居酒屋さんでも定食屋さんでも、りゅうきゅうを定番料理として出しているんですもんね?
中野さん:だから、この郷土料理をブランディングしようと決意しました。りゅうきゅうを立派な料理に昇華させて、魚を食べる文化を未来に繋いでいこうと思ったんです。このまま立ち話もなんですし、そろそろ工場の中に入りましょうか。
工場では、ぶりのりゅうきゅうの仕込みの真っ最中。
山形さん:外が暑かったせいか(取材は8月)、工場内がすごく涼しく感じますね。
中野さん:外との気温差だけが理由ではないですよ。実際、室温は20℃まで下げています。温度をできるだけ低くすることが魚の鮮度を保つポイントですからね。カットしたぶりは、すぐに0〜2℃の冷蔵庫に入れて冷やします。
山形さん:徹底されていますね。それにしても、すごい量のぶり! 1日にどれくらいの数を捌くんですか?
中野さん:最盛期で50匹。商品数に換算すると2000〜2500パック分を作ることになりますね。ここでは、カマをカットして皮を剥ぎ、さくにしてから、ひと口サイズにカットする作業をおこなっています。
山形さん:それだけの量を捌くなら機械を使う方法もあると思うのですが、手作業にこだわる理由があるんですか?
中野さん:手作業がベストだと思う理由は大きく分けてふたつあります。ひとつめは、機械だと魚の繊維の向きが見極められないこと。繊維に沿ってスライスしないと、舌触りが悪くなってしまうんですよ。ふたつめは、手作業で行うこと自体が品質管理に繋がるからです。
山形さん:品質管理というとどんなことをされるんですか?
中野さん:魚の状態を目で見て、触って確かめて、異常があればすぐに報告してもらうようにしています。養殖ぶりは、リスクが非常に低いのですが、寄生虫がついている可能性はゼロではありません。普段から魚のいい状態を知っている人でないと見極められないんですよ。
山形さん:下ごしらえをするとき、ほかに気をつけていることはありますか?
中野さん:少し小さめに切っているところでしょうかね。りゅうきゅうというのは、本来切れ端を使って作られていた料理なので、それに近い形を意識しています。あんまり大きいと、食感が悪くなって、タレの馴染みも悪くなります。それに小さなお子さんにも食べてもらいたいので、一口で食べられるサイズを意識しています。
“神の手”が活躍する商品のパック詰め
ぶりの切り身はひとパック50g あまじょっぱくてコクのある絆屋自慢の醤油たれ 切り身の入ったパックにたれを充填 真空パックにして鮮度を保ちます 1日2000〜2500個をこの少人数で作るなんて驚き
ぶりの切り身は、適切な分量に分けられてパックの中へ。そこにゴマを加えた絆屋の特製たれが充填されます。品質管理のダブルチェック、トリプルチェックのため、ここでもすべての作業が人の手で行われています。
中野さんをして“神の手”と言わしめるのが、パック詰め担当の山崎さん。50gという定められた量を一発で決めてしまいます。そのコツを伺いました。
「大それたコツというものはありません(笑)。一日2000個も詰めていれば、ひとつかみの量がだいたいわかるようになるんですよ。もたもたしていると、身が体温で温まってしまうし、手早く作業するように心がけています」
山形さんも袋詰め作業に挑戦。山崎さんを真似しながら詰めていくのですが、秤に乗せても簡単には合格の重さになりません。
「山崎さんが簡単そうにやっていたので私にもできるんじゃないかと思ったのですが、見ているよりもはるかに難しいです。ひとつかみが多かったので減らしてみたら、足りなくなってしまいますし、ちょっと足してみたらまた重量オーバー。これを一発で決められる山崎さんが“神の手”と呼ばれているのに納得しました」(山形さん)
こうして詰められたりゅうきゅうは真空パックされ、急速冷凍にかけられます。
従業員は9割が女性! 絆屋を支える“りゅうきゅうガールズ”
現代社会において「女性の活躍できる社会作り」は大きなテーマとなっています。絆屋は女性活躍という面でも、成功を収めている企業です。なんと、この会社で働く9割のスタッフが女性なんです。とは言え、中野さんは女性を優先して採用してきたわけではありません。
「これまで性別で採用・不採用を決めたことは一度もないのですが、気がついたら女性従業員の割合が増えていたという感じです。ご覧いただいたとおり、工場での作業は、温度や品質の管理など、細かくルールが決められています。そうした決まりのなかで力を最大限に発揮するという働き方が、みなさんにフィットしているのかなと思います」(中野さん)
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※価格などの情報は取材時のものです。
撮影/吉澤健太 取材・文/小石原悠介