紀伊半島
「串ひもの」ってもしかして発明なのでは!?
海の幸の宝庫・南伊勢町から全国にその名を轟かせる「山藤(やまとう)」の「焼き串ひもの」。漁師町ではお馴染みの加工品、魚の干物を串刺しにすることで手軽に食べやすく美味しく仕上げた、目からウロコの一品です。食通の間でも“知る人ぞ知る”と評判の商品。季節によって、さば、カマス、アジ、カツオ、ぶり、ウルメイワシ、サゴシ、シイラとバラエティも豊富です。なぜ「串ひもの」という商品が生まれたのか、上品で洗練された味の秘密はどんな製法にあるのか。三重テレビのアナウンサー・奥村莉子さんとともに「山藤」で話を伺ってきました。
お箸を使わずに干物を味わえる。食べやすいって素晴らしい!
三重県南伊勢町の「山藤」が、串ひものの製造に乗り出したのは2012年。先代の社長・山本藤夫さんが三重県主催の勉強会に参加し、三重の食材を生かした新しい商品ができないかと考えたのが始まりでした。“美味しい三重の名物”を作りたいという思いに加え、日本人の魚食離れを食い止めたいという思いもあったといいます。南伊勢町の魚の美味しさはそのままに、手軽に食べられて、贈り物にしたくなるようなものはどんな商品か……行きついたのが、骨なし串ひものでした。切り身にして骨を取り除いてから干し、串に刺して、焼いて仕上げる。袋から出せば加熱調理も不要、小骨もないから子供やお年寄りも安心、手でつまめるカジュアルさで魚本来の美味しさを味わえる商品です。
PROFILE
山本久美さん
三重県出身。有限会社「山藤」取締役社長。山藤二代目と結婚し水産業の世界に入り、2019年9月から社長を務める。鮮魚の買い付けや加工品の製造は長男の藤心さん<写真左>が中心になり、久美さんは「山藤」商品のブランディング、プロモーションを主に担当。南伊勢町の漁業、美味しい魚を未来に繋ぐ活動に力を入れている。
仕込み①朝、水揚げされた魚をその朝のうちにさばく
水揚げされた魚を、朝、新鮮なうちに 骨も血合いもきれいに取り除く 作業を真剣に見つめる奥村さん
串ひものに使う魚は、骨は小骨まで、臭みのもとになる血合いもきれいに取り除き、食べやすい大きさにカットします。その後、塩水に浸けたのち乾燥させる工程に。美味しさの第一の秘密は、魚の鮮度にあり。「山藤」が魚を仕入れる田曽浦漁港はすぐ目の前。早朝に水揚げした新鮮な魚は、時間を置かずに加工場に運ばれ、その朝のうちにさばき、乾燥作業までが行われます。食べやすさに加え、旨味はあって臭みのない美味しさのカギはここにあります。
仕込み②串を打てば食べやすい上に身も縮まず、簡単に素揚げも
奥村さんも串打ちに挑戦 貴重な伊豆大島の天然海塩「海の精」 一日乾燥させたぶり 串打ちも一本、一本、手仕事で 奥村さんの串打ちも及第点?
焼鳥に串カツなど、串料理にもいろいろありますが、世にも珍しい魚の串が「山藤」の串ひもの。串に刺したのは、商品の企画段階で「干物を素揚げにして食べたらおいしいのではないか」と考え、揚げるならば串刺しのほうが調理しやすく食べやすいと考えたから。串をつまんでほおばれる気軽さがうれしく、おもてなしの一品としても活躍してくれます。串ひものは焼いて火を通した状態でパッケージされますが、実は素揚げにしても美味しく食べられます。串が骨代わりになり形が崩れず身も縮まずに仕上がるのも、串ひもののうれしい特徴です。
仕込み③袋から出すだけで食べられる“加熱済”も魅力
取材当日は社長自ら焼き台に 一度に80本程度焼けます 焼きたてをひとつつまみぐい♡
串ひものは加熱調理済の商品です。串打ちした干物をガスの焼き台に並べ、ふっくら香ばしく焼き上げます。せっかくの美味しい干物も、自宅で焼くときに失敗してしまっては台なしですが、その心配がないのもいいところ。美味しさに加え手軽さにおいても他の追随を許さない商品なのです。
仕込み④開封するだけで美味しくいただけるパッケージ
奥村さん、今度は袋詰めにもチャレンジ 真空パックに 真空後、加圧殺菌をします 「開けるだけ」で食べられる串ひものの完成
串ひものは1パック2本入り。食べたい分だけ少量から楽しめるのもうれしいポイントです。おかずがあと一品欲しいときやお弁当にも便利。真空にしてから加圧殺菌しているので、常温で6カ月間保存ができます。開封するだけで美味しく食べられますが、袋のまま湯せん、あるいは袋から出してオーブントースター等で温めると、また美味しさがアップします。
アイデアとデザインで南伊勢から発信しています
素材、味付け、アイデアの三位一体から生まれる「山藤」の串ひもの。商品に込めた思いについて、奥村さんが山本社長に話を聞きました。
奥村さん:今日はありがとうございました。少しだけですが、串打ちや袋詰めもさせていただき、とても貴重な体験になりました。
山本さん:実際にやってみられていかがでしたか?
奥村さん:まず、いろいろな工程が手作業で行われていることに驚きました。
山本さん:製法はいたってシンプルですが、手間暇を惜しまず作っています。添加物などを使わないので素材の味が勝負。魚の鮮度はもちろんのこと、塩にもこだわりがあります。
奥村さん:どんな塩を使われているのですか?
山本さん:伊豆大島の海水から伝統的な製法で作られる「海の精」という伝統海塩です。塩辛さだけでなく旨味があり、魚との相性もいいんです。
パッケージもグッドデザイン 串ひものに込めた思いとは
奥村さん:パッケージも素敵ですよね。
山本さん:ありがとうございます、嬉しいです。パッケージデザインは高知を拠点に活動されている、デザイナーの梅原真さんにお願いしました。
奥村さん:高知? どんなきっかけだったんですか?
山本さん:梅原さんは、ご自身もローカルに拠点を置き、一次産業とデザインを掛け合わせ、地方のさまざまな場所で地域創生、再生に取り組まれている著名なデザイナーさんです。私たちの串ひものも、全国に届くようなプロダクトになればいいなという思いから、梅原さんにお願いしました。
奥村さん:なるほど。素敵なデザインにはそんな意志が込められていたのですね。
奥村さん:製造体験に加えて、今日の取材で忘れられないのが、焼きたての串ひものの美味しさです。ふっくらと香ばしく塩加減もほどよく、何本でも食べられてしまいそうなほど!
山本さん:焼きたては格別の美味しさがありますよね。ご自宅で召し上がるときにオーブントースター等で軽く温めていただくと、焼きたてに近いおいしさになると思います。
奥村さん:ぜひやってみます。山本さんおすすめの食べ方があればぜひ教えてください。
山本さん:串をはずして炊き込みごはんにします。見た目も豪華でごちそう感がありますよ。
奥村さん:美味しそう! ぜひやってみたいです。
山本さん:あとは「さば」などはチヂミにしてもおいしかったです。
奥村さん:魚の干物をチヂミに⁉ これまた私にはなかった発想です。お酒に合わせるならどんなものがおすすめですか。
山本さん:いろいろなお酒に合わせてお楽しみいただいています。日本酒や白ワインとはとても相性がいいようです。そうそう、カツオはウイスキーにも合うそうですよ。
奥村さん:なんてオシャレな組み合わせ! そのままでも美味しいし、料理にも使えてお酒との組み合わせでまた味わいが変わる。手軽に食べられるのに楽しみ方は奥深いですね。
山本さん:ご自身の好きな楽しみ方が見つかったら、ぜひ教えてください。
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※価格などの情報は取材時のものです。
撮影/福本和洋 取材・文/佐々木ケイ