渡島半島
せたな町は“北海道のフランス”になる
高橋畜産のある北海道・せたな町は、総延長78kmの海岸線を彩る芸術的な岩群が美しく、大迫力の自然を満喫できるエリアです。すぐ後ろには、青々とした丘陵地が広がっており、放牧されている乳牛たちを間近で見ることもできます。澄み渡った空気、夏でも過ごしやすい涼しい環境は訪れた人たちを癒やすだけでなく、そこで育てられる動物たちにも恵みをもたらしています。
養豚から食肉加工まで一貫しているからこそ可能な高品質
もともと料理人をしていた広大さんが、シャルキュトリに目覚めたのはフランス修行がきっかけでした。「衝撃を受けましたね。なんの変哲もないスーパーで売られている生ハムでさえ、すごく美味しいんですよ」と、人生を変える出合いを振り返ります。本場で技術を磨くなかで「いつか日本でこの味を提供できたなら」という夢を見るようになったそうです。それから高橋夫妻がサッカムセタナイでシャルキュトリとパティスリーを始めたのは、2020年のこと。広大さんの実家は父の代から「高橋畜産」という養豚業を営んでいたこともあり、長年培ってきた畜産の技術とフランスで学んだ技術を掛け合わせて、せたな町から本場のシャルキュトリを届けようという決意を固めたのです。
JALふるさと応援隊の篠原綾佳さんと実際の加工現場を見学させていただきました。冷蔵庫から取り出されたのは、今朝、屠場から戻ってきたばかりという若松ポークマン。切り分けられる前の塊肉は6kgもある大物です。
篠原さん:すごい迫力ですね! この塊はどこの部位になるんですか?
広大さん:お尻と脚、お腹にかけての部位になります。スネはテリーヌに、バラはベーコンに、ももは生ハムになど、用途がそれぞれ違ってきますので、まずはパーツごとに切り分けていきます。合わせて、食感の悪い筋や小さな骨、美味しくない脂、血管などを取り除いていきます。
篠原さん:気持ちいいくらいスムーズに解体されていきますね。豚肉が魚のお刺身みたいにこんなに手早く捌かれていくなんて驚きです。切り分ける作業のときに大切にしているのはどんなことですか?
高橋さん:まずはスピード。せっかくのお肉が悪くならないようにしなくてはいけませんからね。そして感謝の気持ちを持って丁寧に捌くことも大事にしています。自分たちの養豚場で育てている豚だからこそ、食べられる部分は残さず美味しい製品にしたいという想いが強いですね。
篠原さん:高橋さんは、養豚場の手伝いもしながらシャルキュトリをやっていらっしゃるんですよね? 畜産に携わることが加工に生きている部分はありますか?
高橋さん:育てていると季節によって肉質の違いがよくわかりますね。春と夏では全然違うんですよ。だからこそ、季節に合わせて熟成時間なども少しずつ変わってきます。あとは、与える飼料によっても味が変わります。若松ポークマンは地元のお米を飼料に配合しているのですが、それによって日本人の好みに合うあっさりとしたお肉になります。さて、切り分けられたので次は挽いていきますよ。
篠原さん:あっという間ですね。ピンク色のお肉が、そのままステーキにしたくなるくらい美味しそうです(笑)。挽き方も商品によってそれぞれ違うんですよね?
広大さん:ドライソーセージは肉感が残るように粗めに、パテ用は食感の変化が出るように、細かいものと粗めのものとを混ぜるなどして工夫しています。
篠原さん:プチプチという高い音が鳴って、すごい勢いで飲み込まれていきます。6kgあった塊が20分で挽き肉になってしまうなんて、本当に驚きました!
せたな町の恵みを受けたブランド豚「若松ポークマン」
上品な甘みのある脂と、しっかりとした旨みを感じることができる赤身。サッカムセタナイのシャルキュトリの味を支えているのが、すべての商品に使われている若松ポークマンです。若松ポークマンの品種は三元豚で、SPF豚という特定の豚の慢性疾病を排除し、衛生的かつ健康的に育てられたブランド豚です。その特徴は生育の早さにあります。高橋畜産の出荷目安は体重120kg。この大きさになるには、通常170〜180日程度を要すると言われています。それを高橋畜産では140〜150日まで短縮。
「この1カ月が大きな違い。若い豚は脂身に臭みがなく柔らかいため、肉質がいい。生育の早さは全国トップクラスだと聞いています」と、広大さん。なぜ、他社よりも早く大きく育てられるのか。その秘密はせたな町の恵まれた環境にありました。
「飲み水には、道南最高峰の狩場山から流れてくるものを原水とした水を使っています。この水は私たちもふだんから飲んでいるのと同じものです。それに、せたな町の気候も養豚には向いています。豚は暑さに弱い動物なので、夏でも涼しいこの場所は養豚にはうってつけなんですよ。クリーンな環境を提供することで、豚たちを病気や暑さなどのストレスから守っているんです。すべてのエネルギーを生育に向けられることが若松ポークマンの成長の早さに繋がっています」
せたな町の環境は、豚の生育だけではなく、シャルキュトリにも向いているのだそうです。
「環境は本場フランスに似たところがあると感じますね。年間を通して涼しくて、湿度も低い。ヨーロッパでよく育てられているアスパラガスや麦、ワインなどが北海道で作られているのがその証明です。シャルキュトリにとって北海道の風は大きな恵みになります。アイヌの文化として伝わってきた鮭とばは、この地域の風と乾燥した気候が生み出した特産品です。生ハムも同様の環境を好む食べ物なので、この土地に向いた特産品になるのではないかと思っています」
広大さんはサッカムセタナイを営むなかで「せたな町だからできることを広く伝えていきたい」という想いがあると話します。最後に、今後挑戦したいことについて伺いました。
「雪の多い北海道ならではの氷室、雪室を使った製品を作りたいと考えています。普段は冷蔵庫で熟成作業をしているのですが、冷蔵庫の弱点は、温度を一定に保てないところにあるんです。設定温度より少し高くなると冷却し、到達すると冷却をやめてしまう。このわずかな温度の変化で品質は落ちてしまいます。鉄にたとえて言うと、鍛えているときに温度の上下が起こると錆びやすくなったり、強度が弱くなってしまうということがありますよね。これは酸化が原因となっているんです。お肉も酸化にすごく弱くて、酸化が進むと、味も風味も落ちてしまう。氷室は温度を一定に保ちますから、より良い品質の商品をお届けするきっかけになるのではと思っています。こうした、せたな町ならではの取り組みを増やして『北海道にこんなにおもしろいところがあるんだ』ということを知ってもらえたら、この町に暮らす私たちとしてはとても嬉しいことです」
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※価格などの情報は取材時のものです。
撮影/吉澤健太 取材・文/小石原悠介