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氷見の漁業をもっと盛り上げるために松本魚問屋ができること

「松本魚問屋」のさまざまな加工品は、今や、氷見や富山県を代表するプロダクトとして、県内外で愛されています。加工品の開発に乗り出したのは、わずか5年前のこと。卸問屋がなぜ加工品に力を入れるのかについて、与えられた環境から紐解いていきます。

天然のいけす、富山湾

富山湾随一の水揚げを誇る氷見漁港。漁獲量はもちろんのこと、500種にも及ぶという魚種の豊富さとそのクオリティが「天然のいけす」と賞されるゆえんです。富山湾内に限らず日本全国でも有数の好漁場。夜明けと同時に氷見漁港に行き、山下さんに漁港を案内してもらいました。冬場に比べて魚が少ないといわれる夏(取材は7月)ですが、「夏の中でも、今日は少ないほうかもしれないですね」と山下さん。氷見漁港を知るプロの目から見れば”少ない”そうですが、あじに真鯛、のどぐろ、太刀魚などが次々にプラスチック製のかごをいっぱいにする様子は圧巻です。水揚げと並行して、市場で競りが始まると、朝の漁港はさらに活気を帯びます。「松本魚問屋」の社長や専務の姿も。

「松本魚問屋」は1914(大正3)年、「松本活動館」として創業した歴史を持ちます。魚問屋の仕事は、上質な鮮魚を競り落とし、よりよい状態のままで豊洲市場をはじめとする全国の卸売市場やスーパー、鮮魚店へ届けること。季節や天候に応じた水揚げの状況魚の質の見極めで、市場に流通する魚の質や価格が決まります。あまり表には出ない裏方の仕事ですが、漁師さんとともに日本の魚食を支える要。それだけに漁業や魚食には強い思いを持っています。

氷見の海産物の魅力をもっと広めて、氷見を盛り上げたい

バラエティ豊かで味わいもとびきりの「松本魚問屋」の加工品作り。その取り組みや意義について、山下さんと豊田さんに語り合っていただきました。

豊田さん:本当に何もかも美味しかったです。フランスでシェフをされていた山下さんは、なぜ氷見にいらしたのですか。

山下さん:料理だけより、もっと広く、深く食に関わる仕事がしたくなったんです。出身は愛知県ですが父親が漁業関係者で、子供の頃から魚に親しんで育ったので、水産業の世界に飛び込むことにしました。

豊田さん:愛知県のご出身なんですか。富山はいかがですか?

山下さん:寒いです(笑)。移住してきたばかりの頃、1mを超える大雪が降って、これが富山かと。

豊田さん:そうですよね。自然は豊かですが、厳しくもある。

山下さん:魚については、魚種の豊富さに驚きました。漁業に馴染みがある環境で育ったがゆえに、実感としてよくわかる。こんなにも多品種の魚が揚がるのかと驚きました。

豊田さん:加工品作りはどのような経緯で始められたのでしょうか。

山下さん:「氷見の寒ぶり」と言いますが、氷見漁港では冬以外にもぶりが揚がります。ところが夏のぶりは冬場に比べ商品価値が低い。

豊田さん:同じぶりなのに違うものなんですね。

山下さん:市場価値の低い夏場のぶりに付加価値を与える商品をと考えたのが「ぶり生ハム」です。夏のぶりを使用した商品の需要が高まれば、供給に準じて市場価値が上がる。価値が上がれば漁業関係者が潤う。漁師の収入を底上げし、若い世代が漁業をやりたいと思える環境を整えて、後継者を育てたい。氷見は水産業の町なので、漁業関係者が潤えば町の活性化につながりますから。

豊田さん:そんな背景があったのですね。

山下さん:後継者不足の解決は、日本の漁業の、いや、一次産業全体の課題です。

豊田さん:加工品を作るにしても、ぶりで生ハムを作るのはユニークだなと思いました。発想の原点はどこにあったのでしょうか。

山下さん:水産加工品といえば、全国どの漁師町に行っても干物や一夜干しなどと相場が決まっています。「松本魚問屋」は加工業としては後発でしたので、市場にない商品を生み出さないとやっていけないし、意味がないと考えました。

豊田さん:そこで山下さんのシェフというキャリアが生かされるわけですね。

山下さん:そうですね。前職の経験は大いに役立っています。加えて、自社の加工品を売ることも大事ですが、より大きな視点で見れば、魚を食べる人を増やしていかないといけないという思いも強かったので。

豊田さん:どういうことでしょうか。

山下さん:今現在、和食や魚食に馴染んでいる人以外に魚を食べてもらわないと、魚の消費は増えない。だから、魚は調理が面倒と感じて、つい肉食傾向になりがちな方々にも気軽に取り入れてもらえる商品を作りたかったんです。

豊田さん:それで「ぶり生ハム」を。

山下さん:ほかに、真いわしで作るアンチョビや、ぶりのジャーキーなどもあり、おかげさまでご好評いただいています。

豊田さん:日本人の”魚離れ”は、やはり深刻なのでしょうか。

山下さん:そうですね。それと並行して、冒頭にお話した漁業サイドの課題がある。それは日本の漁業の構造的な問題にも関係するんですよね。一例として、日本人の天然魚至上主義が挙げられます。海外では養殖が盛んで上質なものは高値で流通していますが、日本では今でも”天然が一番”とされる。漁業は天候に左右されやすいので、このままではいつまでも漁師の収入は安定せず、担い手が増えていかないという悪循環があるのです。

豊田さん:問題解決は簡単ではないですね。

山下さん:はい。生ハムを作って「夏のぶりがおいしいよ」と伝えるのも、魚についての常識や価値観を少しずつでも変えていきたいという思いからなんです。

豊田さん:富山県民としては、富山が誇る食材が、新しい形でいろいろな世代に広く親しまれて行くのはうれしい限り! そして「ぶり生ハム」は地元びいきを抜きにしても、美味しいもの好きに勧めたくなる商品です。

山下さん:ありがとうございます。まだまだ新しい商品もできていくと思います。ぜひご期待ください。

松本魚問屋

富山県氷見市地蔵町7-53 TEL0766⁻74-2300

訪れてみて初めてわかる魅力にあふれる街”氷見”

決して大きな街ではないですが、富山の海を中心に発展した氷見市は魅力にあふれた街。素晴らしい眺望、輩出した著名漫画家にまつわるスポットなど、ゆっくり見て回るべき場所があちこちにあります。

氷見漁港

比美乃江海岸から漁港を臨むと、氷見漁港の灯台と天気がよければ立山連峰が見えます。松本魚問屋の山下さんおすすめの風景は、氷見市のお隣、高岡市にある雨晴(あまはらし)海岸からの眺め。万葉の歌人、大友家持がこよなく愛した場所として知られ、浜から眺める3,000m級の立山連峰の雄姿は圧巻の美しさ。海越しに山脈を望む景観は世界でも稀で、「日本の渚百選」「白砂青松百選」に選ばれています。青い海と岩礁、青松が続く絶景。晴れの日ならば、絶対に足をのばしたいスポットです。

  • 雨晴海岸
  • 富山県高岡市太田雨晴 TEL0766-20-1547(高岡市観光協会)

 

比美乃江公園

氷見漁港、市場からも歩いてアクセスできる場所にある「比美乃江公園」。広大な敷地に芝生が敷かれ、海を眺めながらの散策にうってつけで、広場から富山湾に浮かぶ無人島・唐島も見えます。公園内には、造形の美しい360°パノラマ展望台も。氷見の市街地と富山湾が眺められる絶景スポットとしても人気です。海水を引き込んだ親水池や子供用のフットサルコートもあり、家族連れでも楽しめます。

  • 比美乃江公園
  • 富山県氷見市大町 TEL0766-74-8078(氷見市)

 

藤子不二雄Ⓐ先生の生まれ故郷

2022年に亡くなった藤子不二雄A先生の故郷でもある、氷見市。『忍者ハットリくん』『怪物くん』『笑ゥせぇるすまん』など数々の名作を生みだした日本漫画界の巨匠の功績が讃えられ、市の名誉市民として名が刻まれています。比美町、中央町を中心とした「まんがロード」や「氷見市 潮町ギャラリー」がある一帯は「氷見市 藤子不二雄Aワールド」と名付けられていて、藤子不二雄Aファンや漫画ファンの聖地として多くの観光客が訪れます。あちこちで出会えるキャラクターたちのマスコットは、記念撮影スポットとしても人気です。

  • 忍者ハットリくん巨大壁画
  • 富山県氷見市中央町 TEL0766-72-4800(氷見市潮町ギャラリー)

日本屈指の漁港に、日本の漁業の未来を思う魚問屋あり。海の恵みを無駄なくいただき、大切な水産資源を未来へと、日本が世界に誇る魚食文化を次代へとつなぐ試みが続けられています。氷見産の「ぶり生ハム」は、その思いを象徴するプロダクト。その美味を味わえば、きっと富山県・能登半島へと旅をしたくなるはず。心を癒やす絶景も待っています。

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※価格などの情報は取材時のものです。

撮影/福本和洋 取材・文/佐々木ケイ

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”寒ぶり”だけじゃない! ”氷見のぶり”を通年商品にする「ぶり生ハム」
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