下北半島
「大間の本マグロ」
「大間(おおま)」という地名を聞いて、まっさきに連想するワードは「まぐろ」ではないでしょうか。青森県の大間町に水揚げされるのは、青森県と北海道のあいだにある海・津軽海峡で1本釣りされた、俗に黒いダイヤや本マグロと呼ばれる「クロマグロ」。
津軽海峡にはさまざまな海流が流れ込み、イカやフクラギ(ハマチやイナダとも=ブリの幼魚)をはじめとする餌も豊富で、まぐろにとっては理想の環境なんです。
2007年に大間漁協の出願により、同町のまぐろが「大間まぐろ」という地域団体登録商標としてブランド化。大間から出荷される30kg以上のまぐろの頬部分には、通し番号が書き込まれたブランドシールが貼られていて、どの船がいつ、どんな漁法で獲ったまぐろなのかを徹底管理されています。
こうして、その名を世界に轟かせる大間では、寿司店をはじめ地元飲食店で提供されるまぐろ料理はもちろん、PRイベントを積極的におこなったりと、まさに官民一体となって、まぐろの魅力をフルコースで提供中。
ちなみに大間町へのアクセスは北海道新幹線→八戸よりも、函館からフェリーで90分というのが地元の人のおすすめルートだそう。では、まぐろの”一丁目一番地”のパワフルな魅力をお届けしましょう。
“まぐろ町”の名店で味わう丼・握り・コース… 「赤身にも脂」が大間の常識です
まずは大間まぐろ料理の実物をご覧いただきましょう。トップの写真1枚めが「本鮪・特上丼(¥4,200)」、上の写真が「本鮪 握り盛り合わせ(¥5,900)」で、どちらも大間町を代表する創業57年の寿司店「大間 浜寿司」の人気メニューです。
大間で食べられるまぐろの特長は、なんといっても脂のノリ。しつこさもクドさもない脂には、後味が上品で飽きのこない旨味があります。舌のぬくもりで溶ける「大トロ」、ひと噛みで口内に脂が広がる「中トロ」はもちろんですが、大間まぐろで注目すべきは「赤身」。色の濃さも味の濃さも、ちょっと違うんです。
ひと口に「大間まぐろ」と言っても、質の良し悪しはピンキリ。浜寿司では、毎年まぐろが一番ウマいとされる11~12月に1年分を一気に買い付け、自社の冷凍庫(マイナス85℃)に保存されているそう。お寿司や丼に限らず、まぐろのいろんな部位・味を試してみたい人にぴったりなのが、完全予約制の「まぐろコース」(8~10品)。
さらに漁港のそばだけあって、まぐろ以外の海産物も絶品です。近年、裏看板メニューとして人気なのが「浜寿司おすすめ海鮮丼」。まぐろの赤身、中トロなど18~19種ほどの旬の海産物が盛りつけられた、メガ級のお楽しみ丼なんです。
浜寿司の「まぐろコース(¥7,900、2名〜完全予約制)」※写真はイメージ、内容はその日によって変わります 浜寿司の裏看板メニュー「海鮮丼(¥3,600)」。ほかにも「おまかせ握り(¥4,000)」などが人気 浜寿司の店内。老舗ながら、親しみやすい空気感です
- 「大間 浜寿司」
- ・住所/青森県下北郡大間町69-3
- ・営業/11:00〜21:00 (中休みあり)※宴会は〜22:00、不定休
- 詳細はこちら
本場のまぐろ解体ショーを中心にイベントで町をPR…希少部位のオークションも!
大間町で例年おこなわれている代表的なイベントは2つ。1つめは、毎年8月14日に開催される「大間町ブルーマリンフェスティバル」です。当日は朝から「まぐろ解体ショー」〈写真・上〉やまぐろ無料試食、船競争、プロ歌手によるコンサート、そして夜には秋田県・大曲から花火師を招いて約5,000発の打ち上げ花火が空を舞う…という一大イベントで、平均13,000人ほどの来場者が訪れています。
2016年には、女優・歌手の酒井法子さんライブと、子供たちに大人気の『仮面ライダーゴースト』のショーが開催され、2万人以上の来客を記録したそう。残念ながらコロナ禍の影響で2020年・2021年は中止でしたが、来年以降に期待は膨らみます。
もうひとつのイベントが、9月・10月の毎週日曜に大間港の倉庫で開催される「日曜日はマグロだDAY」です。こちらは、本年も10月にのみ開催が決定。10月24日と31日におこなわれる予定のため、ぜひチェックしてみて。
みどころは、ブルーマリンフェス同様の「まぐろ解体ショー」と、解体作業の横でおこなわれる「トークショー」。同町のまぐろイベントで20年以上司会を務める近所のパン屋さん・宮野甘盛堂のご主人が、ユーモアにあふれる語り口で、まぐろや大間の魅力を語り尽くします。
イベント数日前に水揚げされ、ショーで解体された生まぐろは、その場でブツに切りわけられて即売会に並んだり、定食として提供されたり。日によっては、スーパーではまずお目にかかれない新鮮なカマや頭などの希少部位が、オークション形式で販売されることもあります。
さらに、公営宿泊施設「大間町海峡保養センター」にお泊りの人(とイベントに参加した希望者)には、同センターの無料お食事券のプレゼントもあります。とくにイベント時は”まぐろづくし”になる大間町。せっかく行くなら、お祭りの時期を目指して!
解体ショーのあと、きれいに部位わけされたまぐろ。脂のノリに喉が鳴ります 「大間町ブルーマリンフェスティバル」の船競争。普段は漁船を駆る漁師さんたちの手漕ぎレースはパワフルな肉体とかけ声で魅せます 「ブルーマリンフェスティバル」の夜には秋田・大曲の花火師による打ち上げ花火大会が 「日曜日はマグロだDAY」の解体ショーは赤い鉢巻きの「宮野甘盛堂」ご主人のトークが名物。パン職人の宮野さんは最初、まぐろのことが一切わからなかったそうですが、持ち前のコミュニケーション能力でネタを仕入れて、今では漁師さん顔負けの知識量に 「マグロだDAY」のまぐろ即売会。都市部で買ったら倍以上しそう… 「大間町海峡保養センター」の大間まぐろと“陸まぐろ=大間牛”の食べ比べプラン(1泊2食つき)。写真は「すき焼きコース」で1人12,000円から
- 「大間町ブルーマリンフェスティバル」
- ・開催/例年8月14日
- ・場所/大間港(雨天の場合、イベントは総合文化センターウイングで開催、花火大会は翌日以降に順延)
- 詳細はコチラ
- 「日曜日はマグロだDAY」
- ・開催/例年9月・10月の毎週日曜 ※2021年は10月のみ
- ・場所/大間港旧冷蔵庫特設会場
- 詳細はコチラ
- 「大間町海峡保養センター」はコチラ
まぐろの台所を支える大間戦士たちの「1本釣り&操舵技術」
ここまでご紹介してきた目にも舌にも美味しい「大間まぐろ」の文化を支えているのは、”大間戦士”こと、まぐろ漁師さんたちのおかげ。まぐろ漁は1本の太い幹縄(横)に多数の釣り針がついた枝縄(縦)がぶら下がった「延縄(はえなわ)」という漁具による仕掛け釣りが一般的ですが、大間町では昔から「一本釣り」が主流です。
一本釣りのメリットはズバリ、まぐろの質の担保。夜間に仕掛けにかかったまぐろが暴れて身が傷ついたり、サメに食べられたりするリスクを防ぐことができます。延縄漁に比べ、1本釣りは格段に手間がかかりますし特別な技術も必要としますが、大間のまぐろ漁師さんたちはまさに腕一本で、世界に名だたる大間ブランドを支えているのです。
1本釣りは、絶えず動き続けるまぐろの進行方向に先回りしてイカなどのエサを撒き、そこに釣り針を投入して釣り上げる手法。つまり、津軽海峡を縦横無尽に泳ぎ回るまぐろに近づくための緻密な操舵技術が必要です。加えて、船上でまぐろの内蔵やエラを素早く外して氷を詰め、鮮度を落とさないよう”シメる”技術の高さが、大間まぐろのとろけるような味わいを作っています。
ちなみに大間まぐろは例年7月末ぐらいに津軽海峡に入り、お正月明けぐらいまでが漁獲シーズン。なかでも11月以降の寒い時期は、おもなエサであるイカのワタ(内蔵)に脂が乗り、「夏まぐろ10本=冬まぐろ1本」といわれるほど、まぐろの質と値段が跳ね上がるそう。
近年、まぐろの漁獲量が世界的に国ごと・地域ごと・漁師さんごとに制限されるようになって、より冬に漁が集中するようになってきたそう。制限のなかで少しでも質のいいまぐろを釣り上げるために、まずは撒き餌用のイカを半日ほどかけて獲るというから驚きです。
そんな漁師さんたちの仕事ぶりに興味を持った方にお知らせ。まぐろ漁を別船から見学する民間企業主催のツアーが開催されている(※現在は予約受付休止中)のと、ツアーではありませんが大間漁港でもタイミング次第でまぐろが水揚げされるところを遠くから見られることもあります。ぜひ一度、海の戦士たちの活躍をご覧あれ。
釣り上げられたあと船上で素早くシメられた、まぐろ。シメ技術は函館はじめ他地域の漁師さんたちと勉強会などを開催し、日々向上させているそう 大間の漁師さんたちの操舵技術は全国でもピカイチ 大間には民間企業による“まぐろ漁見学ツアー”も。写真はYプロジェクトが8月〜10月上旬に実施している「大間まぐろ一本釣り漁ウォッチングツアー」 漁港に水揚げされた、まぐろ。タイミングがよければ、漁港での作業の様子は遠くから見学できる
※価格などの情報は取材時のものです。