国東半島
神仏習合の伝統が息づく”パワースポット”国東半島
大分県の観光といえば、別府や湯布院などの温泉がメインになりがちですが、仏教文化の漂う国東半島で心を洗う旅をするのもいいでしょう。一帯の山々は、信仰の場として古くから行場や峰道が数多ある神聖な土地として知られてきました。JALふるさと応援隊の大分県担当・山形さんと1300年あまりの歴史を誇る半島を巡りました。
- ◆国東半島の観光スポットは他にも!
・「恋叶ロード」の絶景スポット
・ゆっくり歩いて風情を味わいたい、美しき歴史に触れる場所
両子山を中心とした六郷満山を統括する「両子寺」
両子寺の入り口には仁王像が屹立する 橋の下に観音様を祀ってあり、渡ると信仰心が湧き起こると伝えられている無明橋 千徳坊という力持ちのお坊さんが山から引き下ろして橋にしたといわれる大石・鬼橋 洞窟にはめ込まれる形で作られた両子寺の奥の院
大分空港から車で約30分。豊かな田園風景を抜けて、国東半島の中央にそびえる両子山へ。
この山は国東半島の最高峰で標高720メートルを誇ります。その中腹にあり、登山口の役割を果たしているのが両子寺です。子授け祈願のお寺として知られ、718年に奈良時代の僧・仁聞菩薩によって開基されたのが始まりです。仁聞菩薩は国東半島に69,300の仏を祀り、65カ寺を建立。六郷満山(この地に開かれた天台宗寺院全体の総称)と呼ばれる霊場を開きました。両子寺は六郷満寺における中山本寺。江戸時代以降は全山を統括する総持院の役割を担ってきました。
さて、境内に入ると、立派な仁王の石像が。その先に延々と階段が続いています。緩やかな傾斜ではありますが、山岳修行に使われているというだけに、登りきるのはなかなかハードワーク。山形さんの額にもうっすらと汗が浮かびます。ただ、その脇には杉の大森林が広がっており、取材時の残暑から守ってくれているようでした。この森は「全国森林浴の森百選」にも選ばれている屈指のパワースポット。空から漏れる清らかな光には神々しさを感じます。
階段を登り切り、護摩堂、稲荷堂を越えると、両子山に伝わる七不思議のひとつ「鬼橋」。そして、県指定の有形文化財「国東塔」が。このように、興味深い自然物や建造物が点在しているのも両子寺の魅力でもあります。そこから待っていたのはさらなる急階段。蝉時雨を聴きながら登ること2分。崖沿いの道に朱色の橋が緑に映える奥の院が見えてきました。崖の上に建造された奥の院は、まるで宙に浮かんでいるような幻想的なものでした。
奥の院のさらに奥には洞窟が。奥の院は、洞窟に建物の一部をめり込ませた造りになっており、このため、宙に浮いているような建築が可能となっていたのです。中には石像の千手観音が祀られており、ロウソクの炎が揺らめいていました。ちなみに洞窟内から湧き出る水は「不老長寿の霊水」と言われているようです。
- 両子寺
- 大分県国東市安岐町両子1548 TEL 0978-65-0253
- 拝観時間 8:30~16:30 参観料 300円
あのことわざの発祥の地、知恵を与える文殊仙寺
駐車場に車を停めて、石段を登り境内へ 本堂までは約300段もの階段が続く 絶壁の前に建てられた文殊仙寺
六郷満山のお寺のひとつで、標高617メートルの峨眉山の中腹にある天台宗の寺院が文殊仙寺です。奈良県の安倍文殊院、京都府の知恩寺に加え、日本三文殊に数えられる文殊仙寺は、知恵の母・文殊菩薩を本尊としており、学業成就や合格祈願のために訪れる受験生があとを絶ちません。「三人寄れば文殊の知恵」ということわざの発祥の地と言われれば、勉学の聖地とされるのも頷けるはずです。
文殊仙寺の本堂までは、駐車場から階段を登って向かいます。その段数は約300段。しとしとと雨の降るなか山形さんと出発。大きな岩や木に囲まれた境内は、霧立ち込める天気模様もあって、神秘的な雰囲気に。樹齢400年を超える杉をはじめ、長い年月をかけて育てられた自然林は、「未来に残したい日本の自然100選」に選出され、県指定の天然記念物にもなっています。迫力のある仁王像や自然の美しさに目を奪われながら石段を登ると、本殿奥の院の文殊堂が見えてきます。そして、本堂のすぐ後ろには切り立った岩山が。あまりの迫力に、山形さんは「この景色を見られるだけでも登ってきた甲斐がありましたね」と感動した様子でした。
- 文殊仙寺
- 大分県国東市国東町大恩寺2432 TEL 0978-74-0820 拝観時間 9:00~16:30
沖合の小島に立つ鳥居がトレードマークの八幡奈多宮
八幡奈多宮の元宮は、沖に浮かぶ市杵島にある 奈多海岸に面した八幡奈多宮には皇室の方々も参拝 八幡奈多宮は縁結びのご利益があると言われています 遊歩道の先にある神幸橋。2022年に修築されたばかり
大分空港から車で南へ10分。八幡奈多宮は杵築市の海岸沿いにあります。全国4万社あまりある八幡様の総本宮・宇佐神宮や、六郷満山と縁があり、宇佐神宮の旧ご神体とされる「木造僧形八幡神坐像」と2体の「木造女神坐像」という合計3体の像が収蔵されているのは、関係の深さを象徴しています。なお、この3体の像は、国の重要文化財に指定されています。沖合に浮かぶ市杵島は、氏神・比売大神(ひめのおおかみ)という国境の神様が示現したものだと言われており、朱の鳥居は杵築市のシンボルになっています。
八幡奈多宮の前に広がる白い砂浜は奈多海岸という人気の海水浴スポットです。奈多海岸は、狩宿海岸に繋がっており、南北2キロメートルにわたって続く砂浜と老松の景観は「日本の白砂青松100選」に選ばれているだけでなく、環境省選定の「快水浴場百選」にも選ばられています。山形さんは「遠くまで見渡せて、半島の形がわかります。波の音が穏やかで、歩いているとすごく癒されますね」と、散歩を満喫していました。
- 八幡奈多宮
- 大分県杵築市奈多229
自然が生み出したアート!? 奇岩・おしり岩
たしかにおしりの形に… わかりやすい看板のインパクト 見上げるほど巨大な岩に山形さんも驚き ギザギザとした岩群は「黒津崎アルプス」とも呼ばれる 黒津崎アルプスに乗るとダイナミックな風景
国東半島の観光スポットはありがたい神社仏閣ばかりではなく、少し変わったものもあります。その代表格が奇岩・おしり岩。八幡奈多宮から海岸線を車で北へ進むこと20分。黒津崎海岸の入り口に「おしり岩 入り口」の看板が。この海域は伊予灘と呼ばれ、晴れた日には対岸に四国の島々を見ることができます。砂浜と花崗岩の磯が広がるこの海岸は、ウミガメの産卵地にもなっています。防風林を抜けるとすぐにその奇岩は現れました。高さ5mはあろうかというほどの巨大な岩。丸い岩の真ん中に亀裂が入って、お尻のように見えます。おしり岩以外にも、海から顔を出したような形のオットセイ岩、八畳ほどの平らな岩が広がる八畳岩、アルプス山脈を連想させるギザギザとした花崗岩群などおもしろい岩がたくさんあります。国東半島を訪れた際には、ぜひご自身の目で確かめてみてください。
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※価格などの情報は取材時のものです。
撮影/吉澤健太 取材・文/小石原悠介